司法書士:神奈川県大和・海老名・座間・綾瀬市で、相続、遺言、債務整理、不動産名義変更、会社設立などのご相談。

多重債務問題推移

ホーム>債務整理の解説>多重債務問題推移

多重債務問題の推移

平成12年以前(過払い請求前夜)

 平成12年以前、私はまだ債務整理の仕事をしておらず、幾つかの事実と、人から聞いたことを元に話しをします。
 平成12年以前は、返済が滞ると、その取り立ては過酷であり、自宅や会社へ直接取り立てにいくのは普通であり、場合によっては、子供の学校まで借金取りが表れたということを聞きます。
 平成11年には、日栄という会社が、取り立てに際して、「金がないなら、内蔵を売れ!」として脅迫まがいの取り立てをし、これがニュースになって流れて大きな社会問題となりました。
 これをきっかけにして、過酷な取り立ての取り締まりが強化され、以降は以前ほど過酷な取り立てはされなくなったようです。
 なお、平成11年に改正され、12年から施行された貸金業規制法では、それまで40.004%であった上限金利が、29.2%になりました。

平成14年(司法書士簡裁代理権)

 平成14年には、司法書士に簡裁代理権が付与され、多重債務問題(当時はクレサラ問題といっていた)に本格的に取り組むようになりました。
 このころから、多重債務問題が最悪の状態になっていきます。多重債務に状態にあり、潜在的破産者が200万人いるといわれ、実際に破産する人が年間20万人を超えるようになります。バブルがはじけた平成初期には、年間破産者が年間1万人を超えたといってニュースになったそうですが、桁違いに増えてしまいました。
 これに対して、消費者金融大手は、過去最高益を更新していき、日本の企業の利益ランキングで全国のベスト100に消費者金融大手が軒並み名を連ね、社長は長者番付に名前が載るという状況でした。
 街では、駅前でざっと見渡すと、消費者金融の看板ばかりが目立ち、軽く10以上を数えられ、サラ金ビルといわれる1階から5階まで全部サラ金が入居しているビルなどもありました。
 このころは、テレビコマーシャルも活発に行なわれ、ゴールデンタイムにも消費者金融のCMが頻繁に放映されました。アイフルがチワワを使ってCMを行い、好感度CMのNo1になったのもこのころです。サラ金からお金を借りて犬を買うなんて、とんでもない話なのですが。
 このようにして、消費者金融は過剰な融資をしてボロ儲けをし、方や債務者は生活が破綻していくという非常にアンバランスな状況となっていました。

平成15年(破産申立件数過去最高)

 この年、破産申立て件数が過去最高の25万件となり、以降は徐々に減少していきます。
 徐々に減少していった要因はいろいろあるかと思われますが、実感は伴わなかったものの、このころから景気が数字的には長期にわたり回復していったこととともに、過払い金は当然返金してもらえるものとなっていき、これにより破産をせずにすむようになっていったのも大きな要因かと思われます。
 しかしながら、まだしばらくは、多重債務により生活が破綻する人が後を絶ちませんでした。

平成18年(重要な過払い関連判決)

 この年が、多重債務問題の大きな転機になりました。
 まず、前年12月には、過払い請求の障害になっていた、取引履歴の開示問題について、最高裁判所は、貸金業者が保有している取引の履歴は、債務者から請求があった場合は全て開示しなければならない、開示がされない場合には、損害賠償の請求ができる、という判決をしました。これにより、過払いの計算が簡単にでき、過払いの請求が格段にやりやすくなりました。
 この年の1月には、有名な、18%以上の利息を受領することは完全に無効であるという内容の判決が最高裁判所でなされました。これにより、それまでの過払い返還訴訟では、敗訴となる可能性もありましたが、この判決により、18%以上の利息は100%認められないということになり、計算上過払いとなれば、その全額を返金してもらえるのが当然ということになりました。
 これ以降、計算上過払いが発生すると、貸金業者にその請求をすると、ほぼ100%の金額を返金するということで簡単に和解が成立するようになりました。これにより、それまで困った人を助けるために行なってきた債務整理の仕事が、簡単に儲かる仕事となり、電車内での広告や、新聞、ラジオ、果てはテレビコマーシャルで、“過払い金を取り返します”という宣伝が活発になされるようになったことは、多くの方がご存知かと思います。従来から債務整理の仕事に携わってきたものにとっては、非常に違和感のある状況となりました。
 この年の12月には、貸金業法が改正されました。改正にいたるまでは、消費者金融側と、債務者側の弁護士・司法書士・被害者団体で、国会議員を巻き込んだ様々な綱引きがあり、私も日比谷公園から国会議事堂前までのデモ行進に参加しました。消費者金融側は、29.2%の利息を正当な利息と認めさせたかったわけですが、これまでの状況からどうしなければならないかは明らかであり、結果は利息制限法を超える18%以上の利息は完全に無効となりました。さらに、これらに加えて、貸付の総量規制などが行なわれ、消費者金融業者が弱者を食い物にして、濡れ手に粟のようなボロ儲けができる時代は終わりを告げました。

平成19年(過払い訴訟の新たな論点)

 前年の最高裁判決から、計算上過払いになれば、過払い金は全て返還しなければならず、消費者金融は請求されれば無条件でほぼ全額を返還してくるという時期がしばらくありましたが、このまま続けば会社が破綻することは明らかでした。
 この年になると、消費者金融の反撃が始まります。18%以上の利息が認められないことはもうどうにもなりませんが、別の観点から、なんとか過払い金の返金を少しでも少なくしようと、いろいろ研究をしてきました。それが、悪意の受益者、時効、分断という論点です。

  • 悪意の受益者
     悪意の受益者とは、18%以上の利息をとれないと知っていたかどうか、ということで、知っていたのであれば、過払い金の元金に利息をつけて返還しなければならないというものです。最終的には、最高裁判決で、特段の事情がなければ悪意と推定されるとされ、現在は悪意でないという主張は退けられています。
  • 時効
     時効というのは、取引が長期に渡り、過払いが10年以上前から発生していた場合、過払い金は返済する度に発生していくので、10年以上前に発生した過払いは無効であり、10年前以降の過払い金のみが有効であるとするものです。これも最終的に最高裁判決で、取引が継続している限りは、時効とはならないとされました。
  • 分断
     最もやっかいな結果となったのは、分断の論点です。貸し借りを継続している過程で、一時的に全額を完済して借入残高が0円となり、その後しばらくして再度借入れをして取引が継続されるということがあります。これを、一旦完済するまでと、その後再度借入れた取引が、連続した取引であるのか、別々の取引であるのかが問題となりました。
     連続した取引であれば、18%の利息への行き直し計算は一連の取引として計算されますが、別々の取引ということになると、それぞれ別々に計算をして、最後に両者で発生した過払いを加算するということになります。こうすると、両者では発生した過払い金額は大きく差が生じ、連続して計算をしたほうが、多くの過払い金額となります。特に、一旦完済したのが10年以上前であると、そこまでに発生した過払い金は時効となってしまい、過払い金額は極端に少なくなる、場合によっては支払い残が残るということになります。
     この分断について最高裁は、一旦完済したら別々の取引であるとか、完済しようと連続であるとか、一律の判断をせず、完済したときに行なった手続やそれまでの取引の状況、取引が中断した期間などを総合的に判断して決めるとしました。このため、取引の途中で完済をしたことがあると、消費者金融側は分断しているという主張をしてきて、裁判になって勝つこともあり、負けることもあるという状況となって、和解をするときも、取引の状況を勘案し、場合によっては、少ない金額での和解を検討せざるをえないという事態になりました。

 このように、分断の論点はやっかいな結果となりましたが、取引の途中で完済をしているという割合はさほど多くはなく、消費者金融・クレジット会社は、多額の過払い金を返還しなければならず、経営は苦しくなっていきました。この年から中小の消費者金融業者は次々と廃業していき、クレジット会社は合併中堅クラスの消費者金融業者や商工ローン業者が経営破綻するということも起こってきました。
 この年以降経営破綻した主な貸金業者は次のとおりです。

 平成19年9月 クレディア
 平成20年3月 アエル
 平成21年5月 ロブロ(旧日栄)
 平成21年2月 SFCG(旧商工ファンド)
 平成22年9月 武富士
 平成23年4月 丸和商事

平成21年(なりふりかまわぬ対応)

 この年、アイフルが私的ADRを申立て、年末には成立しました。私的ADRとは、事業者の任意整理のようなもので、大口の債権者(過払い債権者は対象外です)と交渉して債権の繰り延べなどをしてもらう、ということです。
 これに先立ち、アイフルはなりふり構わず、このままではうちは経営破綻する、過払い金の5割を返金するから和解して欲しいと言い出していました。もちろん、ハイそうですか、などと言えるわけがなく、この年はアイフルとの過払い返還交渉は全て裁判になりました。
 その後、他の消費者金融やクレジット会社もこれに追随してきて、5割、6割の返還で和解をして欲しいと言い出すようになりました。いつ倒産するか解らないという問題もあり、どこを落としどころにするか、悩ましい状況となりました。

最近の状況

 貸金業者側からは、過払い金の返金を抑えないと、経営が立ちゆかないということで、過払いの和解交渉で低い率の返金で合意して欲しいと行ってくることは相変わらず続いていますが、業者によっては、過払い返金が収束する目処がついてきたのか、返金する時期が遅いことを我慢すれば、100%近い金額で和解できるといってくるところも出てきました。
 平成19年以降は、利息も順次18%に下げられ、新たな過払いは発生しなくなり、総量規制も行なわれて借入れをしにくくなったため、過払い請求や債務整理の手続は減少してきているようです。年間の破産申立件数は、ピーク時の半分になっています。
 最近の問題は、リーマンショック以降、失業などにより借金を返済できなくなった、低収入で生活が成り立たない、という状況が多くなったということです。以前から、多重債務となる遠因は低収入ということがありましたが、それでも以前は、借金の問題を解決し、生活を改めればなんとかやっていけそうであったものが、最近は、借金がなくなってもこの収入では生活は厳しいだろうという状況であることが増えました。
 また、貸金業者の減少が続き、登録した貸金業者の数は、都道府県の登録の中小の貸金業者が平成12年3万件弱、財務局登録の中堅から大手が1200件弱でしたが、平成24年にはそれぞれ、2,500件以下、400件以下となり、その数は激減しています。

 統計資料の出典 金融庁 貸金業関係資料集
 http://www.fsa.go.jp/status/kasikin/20111021/index.html


<多重債務推移> 最終更新 2012-07-11 (水) 21:07:32 by 司法書士下原明(大和市)

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional